<6月7日>
いよいよ、今年の窯焚が近づいて来ました。何の影響か判りかねますが、いや、焦ってるんだな、今日は、随分失敗しました。焦って詰まらん物をたくさん焼くより、平均点を下げてでも、最高点 を上げる為に築いた窯だ。「落ち着いて一所懸命やるばかりとぞしれ。」
<6月8日>
「焦りを言葉で抑え込み今日も轆轤(ろくろ)せり。」考えて、考えて作った形が、どうもだらしがねえ。いつもそんな風にして「轆轤(ろくろ)※水引き」の段階で処分してしまうのだが、ケチケチ半分程は残す。削りを経てから判断しないと何がどうなるとまずいのかが分からない。それでも、やってるうちに何となく形になってくる、かな〜?
※轆轤(ろくろ)作業には「水引き」や「削り」などがあります。
<6月9日>
少し外の空気を吸ってきました。やはりそういうことなのか。仕事場を流れる時間に惑わされていた。外に出れば外の時間が流れてくる。それは、まだ失っていない。そんなことはとっくに経験済みで、身についていると思っていた。やっと調子に乗ってきたら明日で「轆轤(ろくろ)※水引き」は終わりだ。
<6月12日>
いつものことながら、「轆轤(ろくろ)※水引き」の終わるころになると、様々なネタがうかびます。けれど、それをメモして置いても次の仕事の時には既に新鮮さを失って居るものです。それでも執拗に残っているネタは本物と認め、次回沢山作ってそこから選ぶ基となります。
<6月13日>
赤土に白化粧するのには、「生掛け」と「素焼きに掛ける」のとがあります。うちでは「生掛け」をしているので、雨の日に削りたての素地には掛けられません。水が回ってつぶれてしまうのです。それを言い訳に、昼は「樫本大進のブラームス」を聴いたり、バラ園に行ってみたり、良い時間が持てました。夜は、ちゃんと仕事しましたよ。昼間遊んだ割りに、たいした精度でもないような…。
<6月14日>
今日は、素焼きをしながら釉薬(ゆうやく)の調合をしました。古くからの産地では「あく抜き」のために、しばらく寝かせて置くらしいのですが、うちではいつもこうなります。釉薬(ゆうやく)の調合をする時、前回と同じだと、「へえ、おんなじでいいんだ」
と自身の向上心の無さに、つい情けない気持ちに
なってしまいがちですが、言い訳を一つ。あまりに遼遠な、青磁の世界に向かう時、どうしても釉薬(ゆうやく)に全てを傾けてしまい形が後回しになってしまいます。シーソーのように、釉薬(ゆうやく)と形とは共に高めて行かねばなりません。なかなかそうはいきませんが…。
<6月15日>
「釉掛け(くすりがけ)」にも、「水引き」や「削り」同様、クリアせねばならぬ関門がいくつもあり、それをはずすと精度の高い仕事はできません。今回は青磁ですが、うちでは現在、4種類の青磁を採用しており、それぞれ焼き方が違います。それを一つの(蛇窯)のなかで温度、雰囲気(炭素濃度)を考えたふりして焼くのです。
<6月17日>
作る数を減らしたので、「釉掛け(くすりがけ)も楽勝だ!」と思ったらやはりミス。今日の釉を掛け、いつもどおり厚さを確かめると、やや薄い。掛ける時間で調整出来る範囲とみた…が、私は私に甘いことを知っている。薄すぎるに違いない。丸一日置いておかねば上水がきれない。その作業を他と替えるために、段取りのやり直し…。
<6月18日>
釉薬(ゆうやく)の調合によって、素地ヘの定着が異なります。今日の釉(くすり)は、貫入の無い青磁なのですが、1.5ミリくらいでも乾くと剥離してしまいます。ふのりを増やしても、CMCという科学糊を用いても剥がれます。青磁の中で亀甲貫入のものだと釉薬は2.2ミリくらい、今日のだと1.5ミリくらい載せたいところです。それで、「制作工程」の所にあるように、器の中に掛け、窯で焙って乾かして、それから外側に掛けて、また乾かし、さらに0.3ミリくらいスプレーでかけます。そんな細かいことを言ったって、老眼で見えやしないのですが…。
<6月19日>
昨日、沈殿させた釉薬(ゆうやく)が程よい濃さになっていたのに ちょっと水を足したら、またわずかに薄い。やむなくスプレーで釉薬を補ったのですが、普段スプレーはしないので、その為に換気扇廻りから片付け、狭い仕事場故、あたかもパズルのようです。こんなことは誰でも経験している事でしょうから、くだくだしくは書きませんが、2時間の作業の為に、準備と片付けに2時間かかりました。よく、 京都のじいちゃん(師匠の父親)から、「段取り8割りや」と言われましたが全くですね。
<6月21日>
いよいよ窯詰めです。昨日一日掛けて窯の中も外も掃除して、カマドウマ達が逃げられるように、煙突、横焚き口の全てを開けて蚊燻し(かいぶし)を焚きながらの作業です。去年は米色青磁を狙って酸化焼成しましたが、今年は還元炎焼成(酸欠)の予定です。うちの青磁達は、それぞれ耐火度が異なるので、窯詰めには気を使います。毎回詰め方も違うし温度分布も違うので、窯出しの景色をイメージして決めつけます。
<6月22日>
釉薬の実験は、いくらでもまとめてできるが、窯のそれは、そうは行かない。毎回一つのテーマしか試せない。実際には幾つかいっぺんにテストしてしまうのだが、それでは厳密なことは判らない。今回も、詰め方の実験と同時に、狭間穴(さまあな)の調整迄してしまった。
狭間穴と言うのは、部屋の仕切りの空気穴のことで、うちでは、焼成室と捨間との仕切りにあります。微調整なら、煉瓦を抜いたり差したりで済むのですが、今回はよせば良いのに
仕切りの壁そのものの移動を思い付いてしまい、焼け付いた煉瓦を外しまた煉瓦を削ったり割ったりし乍ら、新たな壁をつくりました。以前なら、座右の銘である「ま、いいか」で済ませてしまいそうな事態ですが、震災後、すこしは 、一期一会が解ってきたのか、ちっとも嫌じゃありませんでした。
<6月23日>
実を言うと、私は薪窯の修行をしたことがないのです。ですから、今回の窯詰め作業報告も些か躊躇する気持ちがありました。今日早くも窯詰めを終えて、その内容はやはり素人っぽいのです。青磁を狙って焼くのですが、これ迄どう足掻いても青磁の焼ける範囲
は狭く、窯は大きく、残りの空間で何が焼けるかが課題でした。そこで、その(おまけ)に気持ちを奪われて居ると、肝腎の青磁がピークを過ぎてしまいます。今回は完全に青磁の余熱で焼くことにして、青磁の後ろの根(床付近)は空っぽです。
<6月24日> いよいよ窯焚きです静かな炎を見ながらじわじわ幸福になってくる。何と言うのか「窯と二人っきり」といった感じでしょうか。雨後静かさ増す。蛍の来りて我が肩にとまる。幸先良し。
数日お休みして、窯焚き終了後、また報告します。
<6月28日>
さて24日から窯焚きをして、今日終了しました。いつもどれ程順調に進んでも途中で暗黒の時間の来る事は知っている。今回も頂上が見えてから、ほんのわずかなタイミングのずれで、温度があがらなくなりました…が、そんな事は100も承知の介。落ちついてそのルートをおり、別ルートを登ります。やっぱり諦めちゃいけない、これで何とかなる、と安心するも途端に上がりが鈍る。またそのルートも降り、また別ルートへ。また頂上を見ながらの撤退。然りながら、万策尽きて窯焚きは終了。精神論に持ち込ませず、具体的な原因を突き止めずば止まず。
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